ポイントテイキングゲーム

この文章は「Trick-taking games Advent Calendar 2016」の12月25日の記事として書いていただきました。



 ポイントテイキングゲーム 

                                      草場 純 

 伝統的なトリックテイキングゲームには、純粋なトリックテイキングとポイントテイキングという
大きな二つのジャンルがある。その中間としてカードテイキングもあるが、これは広い意味の
ポイントテイキングである。 

 純粋なトリックテイキングゲームとは、コントラクトブリッジをその代表とするように、トリック
テイキングプレイによって、獲得トリックの回数を争うものだ。それに対してポイントテイキングとは、
トリックテイキングプレイによって特定のカードの持つ得点を獲得するのを目的とする。
代表例はスカートだが、ほとんどのタロットカードゲームがこれに当たっている。 
 トリックテイキングゲームでは、Aで勝ってもKで勝っても9で勝っても2で勝っても1トリックは
1トリックで、そのトリック自体に価値の差はない。しかしポイントテイキングでは、Aで勝つか
Kで勝つかは大きな差があり、9で勝っても(よい捨て札があれば別だが)普通は全然嬉しくない。
つまり両者はよく似ていても別物と言ってよい差がある。 
 戦略的にはこのことは明らかで、例えば最初にAがリードされたら、トリックテイキングゲームでは、
他のプレーヤーは一般に最も弱いカードをフォローする。しかしポイントテイキングになると、
必ずしもそんなことはない。パートナーがAでトリックを取りに来た時、敢えてKをフォローするという
ことは、むしろよく見かける。 

 純粋なトリックテイキングゲームは、ただ取る回数が問題なだけなので、そうした意味のバリエーションは
それほど多くない。ただ、「たくさん取った方がいい」「少なく取った方がいい」「特定の回数取った方がいい」
程度の違いがあるにすぎない。それに対しポイントテイキングの方は、カードの点数の付け方の種類によって、
いろいろバリエーションが作れる。 

 ポイントテイキングの代表例としてスカートを見よう。スカートはJが切り札になるが、切り札だからと言って
点に変化はない。点数は以下のようになる。 
(EKOUではなく、AKQJで示す。) 

 J=2点 
 A =11点 
 10=10点 
 K=4点 
 Q=3点 
 9=0点 
 8=0点 
 7=0点 
――――― 
合計30点  ×4(スート) = 総計120点 

 この点数システムに基づくゲームは、ドイツを中心に非常に多い。点のバリエーションは、
2,3,4,10,11と0を除いても(以下0点は点の種類から除く)5種類と多様で、こうしたゲームは
日本ではあまり多くない。また、Jを除けば強いほど点が高いのも特徴だ。ちなみにドイツでは
10は一般にKより強い。 

 もっと複雑なものはあとで触れるとして、逆に単純な例としてブラックレディの例を見てみよう。 
スペードQ=-13点 
ハートA=-1点 
ハートK=-1点 
ハートQ=-1点 
ハートJ=-1点 
ハート10=-1点 
ハート9=-1点 
ハート8=-1点 
…中略… 
ハート3=-1点 
ハート2=-1点 
 それ以外=0点 
―――――― 
  総計-26点 
と、至ってシンプルで、-13点と、-1点の2種類の点しかない。しかしこのゲームも、点を取るベクトルは
逆であるが、ポイントテーキングゲームに違いない。スペードQは強いカードだが、それ以外は強さと点数に
相関がないのが特徴になっている。 

 次にイタリアのカラブラセラを見てみよう。これはいくつか種類があるので、最も単純なバリエーションを挙げる。
(ARCFでなくAKQJで示す。) 
 3=1点 
 2=1点 
 A=3点 
 K=1点 
 Q=1点 
 J=1点 
 7=0点 
 6=0点 
 5=0点 
 4=0点 
―――― 
 合計8点  ×4(スート) = 総計32点 
と、これも点数には1点と3点の2種類しかない。おおむね強いカードの点が高いようだが、最も点が高いカードが
3番目の強さと言うのが面白い。
(ちなみにブラックレディのスペードQも(そのスートで)3番目の強さだった。) 

 ではもっと点数の種類を減らして1種類にしたらどうだろう。実はそれが広義のトリックテイキングゲームの中にあって
「狭義のトリックテイキングとポイントテイキングの中間」にある、カードテイキングゲームなのである。 
                        
 日本式ナポレオンは、AKQJ10の、全部で20枚の絵札を取りあうゲームである。これは絵札を取るのが目的だから
純粋の(つまり狭義の)トリックテイキングゲームではない。しかし「ポイント」を集めるのではなく、特定の「カード」を
集めるのだから、これを「カードテイキングゲーム」と私は名付けてみた。 
 だが少し考えれば、カードテイキングゲームが、点数が一種しかないポイントテイキングゲームであることは容易に
理解されるだろう。A~10の絵札に全て1ポイントを、それ以外に0点を与えたポイントテイキングと、ナポレオンは同じものだ。 
 青森を中心に今も多くのプレーヤーを擁するゴニンカンは、AKQJの全部で16枚を集めるカードテイキングゲームだ。
これは出雲の掛合トランプも同じだ。10を絵札に入れるかどうか、ジョーカーを使うかどうかで、この3つは微妙に
違うルールだが、本質はどれもカードテイキングゲームと言えよう。 
 カードテイキングゲームは、ポイントが一種類しかないポイントテイキングゲームだと前述した。しかし次の様に考えると、
カードテイキングがポイントテイキングと(純粋な)トリックテイキングの中間にあると納得できよう。それには52枚の全ての
カードに1点ずつ与えてみるのだ。すると1トリックごとに人数分ずつ点が入るので、結局は純粋なトリックテイキングゲームと、
どこも変わらなくなる。例えば4人でやれば、1トリックごとに4点ずつ入るのだから、獲得ポイントの4分の1が正確に
獲得トリック数に一致する。だから(純粋の)トリックテイキングはカードテイキングの特殊な場合だと、言えないこともない。 

 日本のトランプゲームには、カードテイキングゲームが多いように私には感じられる。今でも、ナポレオンに似た
ローカルなゲームを時々目にする。では日本にはポイントテイキングがないかと言うと、そんなことはない。 
 あまり遊んでいるところを目にすることはないのだが、ツーテンジャックというゲームがある。文字通り、
2と10とJに点のあるポイントテイキングゲームなのである。 
 逆に日本の古いカードゲームである「うんすんかるた」は意外なことに、まぎれもなく純粋トリックテイキングゲームである。 

 さて、以上で(広義の)トリックテイキングには、(狭義の)トリックテイキング→カードテイキング→ポイントテイキング 
3種があることを理解いただけただろう。では次にさまざまな点数づけによるポイントテイキングゲーム各種や、
その他の中間形を見ていこう。 

 ポイントテイキングゲームは、カードに点数があればよいので、どんな点数でもつけようと思えばつけられる。
しかしあまり複雑な点数では覚えきれないから、おのずといくつかに収束しそうである。また強いカードにばかり点が
ありすぎると、強いカードを配られた人がそのまま勝ちそうだ。しかしだからと言って、弱いカードばかりに高得点があると、
ゲームにコントロールが利かないので、作戦も戦略も立たなくなってしまう。 
 伝統的なポイントテイキングゲームを調べてみると、概ね強いカードに点があり(ハードトップ)、中位に少し点があって、
弱いカードは0点というのが多い。また最強のカードだけはむしろ点が低い(ソフトトップ)ということも、多々ある。 
 以下に具体的なゲームに即してそのポイントの配分を見ていく。以下に挙げるゲームには、手役やラストトリックに
点を与える(狭義のトリックテイキングの風味もある混合型)などの例も多いが、手役その他の点には敢えて触れず、
カードの点数だけを見ていくことにする。 

 典型的な例が、冒頭にもあげたスカートの例で、A10KQJ987が、上から11,10,4,3,2,0,0,0(5種120点)と
いう上に厚い形にはなっている。しかし、切り札の最強が実はJで、それは2点に過ぎないというソフトトップの側面もある。 
 このスカートタイプの配点は、シープスヘッドのようにスカートに近いゲームはもちろんだが、マルヤプッシ、シュナプセン、
シックスティシックス、リスティコントラ、カルターシュラーク、ラウス、ティシャチャ、のようにあまりスカートと近縁とも言えない
ようなゲームにも、広く採用されている。尤もこの多少細かすぎるとも言える点数は、面倒に思う人も多いようで、
A=10点、10=10点、K=Q=J=5点、すなわち2種140点という簡易版も、結構 昔からある。 
 また、ドッペルコップのように更にそれをダブルデッキにして、5種240点というゲームもある。 

 スカートに近いが微妙に違うのがヤスの仲間で、これもまた大きなグループを形成している。スカートとの違いは
切り札の9に14点が加わり、切り札のJが最強であると同時に20点と言う最高得点を弾きだし、ハードトップへの回帰が見られる。
サイドスートのJは元々2点だから、18点増しという事だ。こうしてヤスは、1種と32点を増して、7種で合計154点となる。 
 この得点の体系は、ヤスの仲間のシーバーヤス、クラベルヤス、ミットレールヤスなどのゲームだけでなく、ブロットなども共有している。 

 スカート型が一つの典型で、それに少し変化を加えたのがヤスということができる。そうしてクラベルヤスのような
オランダ系のヤスと、シーバーヤスのようなスイス系のヤスの違いが面白い。ヤスなので、両方ともAが11点、10が10点、
Kが4点、Qが3点、Jが2点、それ以外は0点は変わらない。切り札だけ9が14点、Jが(2点ではなく)20点となるのも共通している。
ところが前者ではスカートのように10はKより強いのだが、後者ではJより弱くなる。後者は、ハードトップは変わらないのだが、
その度合いが下がる印象がする。10は点があるのに弱いのでコントロールは難しいが、餌としての効果が大きくなるわけだ。
つまり10は、トリックを取る力は弱まるが、逆に誰にそれをつけるかで勝負の決まるケースが増すことになるのだ。 
 更にスターエクスケ・ラペというゲームがある。これはスイス系ヤスの更に変形と言えよう。Aが11点、Kが3点、Qが2点、Jが1点、
10が10点それ以外は0点の7種140点だから、スカート以上にA10とKQJの点が離れている。 
 これに似ているがマニーレンというゲームでは、10(最強)が5点、A4点、K3点、Q2点、J1点、9以下0点の5種60点と、
カード点数は近いものの、高い点数のカードが減って平均化している。 

 これに点数だけ似たゲームにコテッチョのA6点、K5点、Q4点、J3点、10以下0点の4種72点があり、更に平板化すると、
リベルシのA4点、K3点、Q2点、J1点、10以下0点の4種40点になる。カードテイキングに近づいてきたわけだが、
それには理由があって、これらのゲームはハートのようなミゼールゲームなのである。ミゼールのポイントテイキングでは、
強力なハードトップにしてしまうと、強くてマイナス点の大きいカードを配られた人がそのまま負けてしまうことになる。
それではゲームとして困るので、カードテイキング風にしているわけだ。その極端な例がハートで、全てのハート
それぞれ1点のポイントテイキング、すなわちカードテイキングゲームになっている。 
 もう少しミゼール系のゲームを挙げると、ブラックマリアはハートはどれも1点で、スペードA7点、スペードK10点、スペードQ13点の
4種43点になっている。またポリニャックは、スペードJ2点、ハートJ1点、ダイヤJ1点、クラブJ1点の2種5点と、
ほとんどカードテイキングと言ってもよいようなポイントテイキングである。 
 ミゼールではないが、ピノクルやベジークもAK10が1点であとは0点のカードしかないので、カードテイキングも言える。
これはメルドにウェイトがあって、カードの点数は相対的に価値が低いからであろう。 

 点数づけのもう一つのグループとして、トレセッテやカラブラセラの系統のポイントテイクがある。強い順に、
3は1点、2は1点、Aは3点、Kは1点、Qは1点、Jは1点、それ以外は0点の2種32点だ。(あるいはこれらを全部三分の一にする。)
 点の高いカードが上から三番目というソフトトップのゲームだが、それがこのグループに独特の味を与えている。 

 いろいろあるようで伝統ポイントテイキングゲームは、似た系統のものが多い。こられを覚えておくと、
カードの点数がピンときやすくなるであろう。何かの参考にしてくだされば、幸いである。 

 ただし、近来のゲーム、特にいわゆる創作ゲームでは、点数はゲームのデザインから要請されて構成されるので、実にさまざまである。 
 例えば28と呼ばれるゲームでは、3点~1点の3種28点であり、304と呼ばれるゲームでは30点、20点、11点、3点、2点の6種304点である。
中国の打百分ではKが10点、10が10点、5が5点の、2種100点だ。ソフトトップなので、このゲームもコントロールが難しい。 
 アンビションという創作ゲームでは、4種85点だし、タントニーはランクによって全部点が違うので、13種類の点があることになる。
尤もタントニーをポイントテイキングゲームの範疇に入れていいかどうかは、若干疑問だが。 

                                                      以上
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