草場 純 伝統的なトリックテイキングゲームには、純粋なトリックテイキングとポイントテイキングという 大きな二つのジャンルがある。その中間としてカードテイキングもあるが、これは広い意味の ポイントテイキングである。 純粋なトリックテイキングゲームとは、コントラクトブリッジをその代表とするように、トリック テイキングプレイによって、獲得トリックの回数を争うものだ。それに対してポイントテイキングとは、 トリックテイキングプレイによって特定のカードの持つ得点を獲得するのを目的とする。 代表例はスカートだが、ほとんどのタロットカードゲームがこれに当たっている。 トリックテイキングゲームでは、Aで勝ってもKで勝っても9で勝っても2で勝っても1トリックは 1トリックで、そのトリック自体に価値の差はない。しかしポイントテイキングでは、Aで勝つか Kで勝つかは大きな差があり、9で勝っても(よい捨て札があれば別だが)普通は全然嬉しくない。 つまり両者はよく似ていても別物と言ってよい差がある。 戦略的にはこのことは明らかで、例えば最初にAがリードされたら、トリックテイキングゲームでは、 他のプレーヤーは一般に最も弱いカードをフォローする。しかしポイントテイキングになると、 必ずしもそんなことはない。パートナーがAでトリックを取りに来た時、敢えてKをフォローするという ことは、むしろよく見かける。 純粋なトリックテイキングゲームは、ただ取る回数が問題なだけなので、そうした意味のバリエーションは それほど多くない。ただ、「たくさん取った方がいい」「少なく取った方がいい」「特定の回数取った方がいい」 程度の違いがあるにすぎない。それに対しポイントテイキングの方は、カードの点数の付け方の種類によって、 いろいろバリエーションが作れる。 ポイントテイキングの代表例としてスカートを見よう。スカートはJが切り札になるが、切り札だからと言って 点に変化はない。点数は以下のようになる。 (EKOUではなく、AKQJで示す。) J=2点 A =11点 10=10点 K=4点 Q=3点 9=0点 8=0点 7=0点 ――――― 合計30点 ×4(スート) = 総計120点 この点数システムに基づくゲームは、ドイツを中心に非常に多い。点のバリエーションは、 2,3,4,10,11と0を除いても(以下0点は点の種類から除く)5種類と多様で、こうしたゲームは 日本ではあまり多くない。また、Jを除けば強いほど点が高いのも特徴だ。ちなみにドイツでは 10は一般にKより強い。 もっと複雑なものはあとで触れるとして、逆に単純な例としてブラックレディの例を見てみよう。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() …中略… ![]() ![]() それ以外=0点 ―――――― 総計-26点 と、至ってシンプルで、-13点と、-1点の2種類の点しかない。しかしこのゲームも、点を取るベクトルは 逆であるが、ポイントテーキングゲームに違いない。 ![]() 相関がないのが特徴になっている。 次にイタリアのカラブラセラを見てみよう。これはいくつか種類があるので、最も単純なバリエーションを挙げる。 (ARCFでなくAKQJで示す。) 3=1点 2=1点 A=3点 K=1点 Q=1点 J=1点 7=0点 6=0点 5=0点 4=0点 ―――― 合計8点 ×4(スート) = 総計32点 と、これも点数には1点と3点の2種類しかない。おおむね強いカードの点が高いようだが、最も点が高いカードが 3番目の強さと言うのが面白い。 (ちなみにブラックレディの ![]() ではもっと点数の種類を減らして1種類にしたらどうだろう。実はそれが広義のトリックテイキングゲームの中にあって 「狭義のトリックテイキングとポイントテイキングの中間」にある、カードテイキングゲームなのである。 日本式ナポレオンは、AKQJ10の、全部で20枚の絵札を取りあうゲームである。これは絵札を取るのが目的だから 純粋の(つまり狭義の)トリックテイキングゲームではない。しかし「ポイント」を集めるのではなく、特定の「カード」を 集めるのだから、これを「カードテイキングゲーム」と私は名付けてみた。 だが少し考えれば、カードテイキングゲームが、点数が一種しかないポイントテイキングゲームであることは容易に 理解されるだろう。A~10の絵札に全て1ポイントを、それ以外に0点を与えたポイントテイキングと、ナポレオンは同じものだ。 青森を中心に今も多くのプレーヤーを擁するゴニンカンは、AKQJの全部で16枚を集めるカードテイキングゲームだ。 これは出雲の掛合トランプも同じだ。10を絵札に入れるかどうか、ジョーカーを使うかどうかで、この3つは微妙に 違うルールだが、本質はどれもカードテイキングゲームと言えよう。 カードテイキングゲームは、ポイントが一種類しかないポイントテイキングゲームだと前述した。しかし次の様に考えると、 カードテイキングがポイントテイキングと(純粋な)トリックテイキングの中間にあると納得できよう。それには52枚の全ての カードに1点ずつ与えてみるのだ。すると1トリックごとに人数分ずつ点が入るので、結局は純粋なトリックテイキングゲームと、 どこも変わらなくなる。例えば4人でやれば、1トリックごとに4点ずつ入るのだから、獲得ポイントの4分の1が正確に 獲得トリック数に一致する。だから(純粋の)トリックテイキングはカードテイキングの特殊な場合だと、言えないこともない。 日本のトランプゲームには、カードテイキングゲームが多いように私には感じられる。今でも、ナポレオンに似た ローカルなゲームを時々目にする。では日本にはポイントテイキングがないかと言うと、そんなことはない。 あまり遊んでいるところを目にすることはないのだが、ツーテンジャックというゲームがある。文字通り、 2と10とJに点のあるポイントテイキングゲームなのである。 逆に日本の古いカードゲームである「うんすんかるた」は意外なことに、まぎれもなく純粋トリックテイキングゲームである。 さて、以上で(広義の)トリックテイキングには、(狭義の)トリックテイキング→カードテイキング→ポイントテイキング の 3種があることを理解いただけただろう。では次にさまざまな点数づけによるポイントテイキングゲーム各種や、 その他の中間形を見ていこう。 ポイントテイキングゲームは、カードに点数があればよいので、どんな点数でもつけようと思えばつけられる。 しかしあまり複雑な点数では覚えきれないから、おのずといくつかに収束しそうである。また強いカードにばかり点が ありすぎると、強いカードを配られた人がそのまま勝ちそうだ。しかしだからと言って、弱いカードばかりに高得点があると、 ゲームにコントロールが利かないので、作戦も戦略も立たなくなってしまう。 伝統的なポイントテイキングゲームを調べてみると、概ね強いカードに点があり(ハードトップ)、中位に少し点があって、 弱いカードは0点というのが多い。また最強のカードだけはむしろ点が低い(ソフトトップ)ということも、多々ある。 以下に具体的なゲームに即してそのポイントの配分を見ていく。以下に挙げるゲームには、手役やラストトリックに 点を与える(狭義のトリックテイキングの風味もある混合型)などの例も多いが、手役その他の点には敢えて触れず、 カードの点数だけを見ていくことにする。 典型的な例が、冒頭にもあげたスカートの例で、A10KQJ987が、上から11,10,4,3,2,0,0,0(5種120点)と いう上に厚い形にはなっている。しかし、切り札の最強が実はJで、それは2点に過ぎないというソフトトップの側面もある。 このスカートタイプの配点は、シープスヘッドのようにスカートに近いゲームはもちろんだが、マルヤプッシ、シュナプセン、 シックスティシックス、リスティコントラ、カルターシュラーク、ラウス、ティシャチャ、のようにあまりスカートと近縁とも言えない ようなゲームにも、広く採用されている。尤もこの多少細かすぎるとも言える点数は、面倒に思う人も多いようで、 A=10点、10=10点、K=Q=J=5点、すなわち2種140点という簡易版も、結構 昔からある。 また、ドッペルコップのように更にそれをダブルデッキにして、5種240点というゲームもある。 スカートに近いが微妙に違うのがヤスの仲間で、これもまた大きなグループを形成している。スカートとの違いは 切り札の9に14点が加わり、切り札のJが最強であると同時に20点と言う最高得点を弾きだし、ハードトップへの回帰が見られる。 サイドスートのJは元々2点だから、18点増しという事だ。こうしてヤスは、1種と32点を増して、7種で合計154点となる。 この得点の体系は、ヤスの仲間のシーバーヤス、クラベルヤス、ミットレールヤスなどのゲームだけでなく、ブロットなども共有している。 スカート型が一つの典型で、それに少し変化を加えたのがヤスということができる。そうしてクラベルヤスのような オランダ系のヤスと、シーバーヤスのようなスイス系のヤスの違いが面白い。ヤスなので、両方ともAが11点、10が10点、 Kが4点、Qが3点、Jが2点、それ以外は0点は変わらない。切り札だけ9が14点、Jが(2点ではなく)20点となるのも共通している。 ところが前者ではスカートのように10はKより強いのだが、後者ではJより弱くなる。後者は、ハードトップは変わらないのだが、 その度合いが下がる印象がする。10は点があるのに弱いのでコントロールは難しいが、餌としての効果が大きくなるわけだ。 つまり10は、トリックを取る力は弱まるが、逆に誰にそれをつけるかで勝負の決まるケースが増すことになるのだ。 更にスターエクスケ・ラペというゲームがある。これはスイス系ヤスの更に変形と言えよう。Aが11点、Kが3点、Qが2点、Jが1点、 10が10点それ以外は0点の7種140点だから、スカート以上にA10とKQJの点が離れている。 これに似ているがマニーレンというゲームでは、10(最強)が5点、A4点、K3点、Q2点、J1点、9以下0点の5種60点と、 カード点数は近いものの、高い点数のカードが減って平均化している。 これに点数だけ似たゲームにコテッチョのA6点、K5点、Q4点、J3点、10以下0点の4種72点があり、更に平板化すると、 リベルシのA4点、K3点、Q2点、J1点、10以下0点の4種40点になる。カードテイキングに近づいてきたわけだが、 それには理由があって、これらのゲームはハートのようなミゼールゲームなのである。ミゼールのポイントテイキングでは、 強力なハードトップにしてしまうと、強くてマイナス点の大きいカードを配られた人がそのまま負けてしまうことになる。 それではゲームとして困るので、カードテイキング風にしているわけだ。その極端な例がハートで、全ての ![]() それぞれ1点のポイントテイキング、すなわちカードテイキングゲームになっている。 もう少しミゼール系のゲームを挙げると、ブラックマリアは ![]() ![]() ![]() ![]() 4種43点になっている。またポリニャックは、 ![]() ![]() ![]() ![]() ほとんどカードテイキングと言ってもよいようなポイントテイキングである。 ミゼールではないが、ピノクルやベジークもAK10が1点であとは0点のカードしかないので、カードテイキングも言える。 これはメルドにウェイトがあって、カードの点数は相対的に価値が低いからであろう。 点数づけのもう一つのグループとして、トレセッテやカラブラセラの系統のポイントテイクがある。強い順に、 3は1点、2は1点、Aは3点、Kは1点、Qは1点、Jは1点、それ以外は0点の2種32点だ。(あるいはこれらを全部三分の一にする。) 点の高いカードが上から三番目というソフトトップのゲームだが、それがこのグループに独特の味を与えている。 いろいろあるようで伝統ポイントテイキングゲームは、似た系統のものが多い。こられを覚えておくと、 カードの点数がピンときやすくなるであろう。何かの参考にしてくだされば、幸いである。 ただし、近来のゲーム、特にいわゆる創作ゲームでは、点数はゲームのデザインから要請されて構成されるので、実にさまざまである。 例えば28と呼ばれるゲームでは、3点~1点の3種28点であり、304と呼ばれるゲームでは30点、20点、11点、3点、2点の6種304点である。 中国の打百分ではKが10点、10が10点、5が5点の、2種100点だ。ソフトトップなので、このゲームもコントロールが難しい。 アンビションという創作ゲームでは、4種85点だし、タントニーはランクによって全部点が違うので、13種類の点があることになる。 尤もタントニーをポイントテイキングゲームの範疇に入れていいかどうかは、若干疑問だが。 以上 |