アジア大会(囲碁)ニュースへのコメント

広州アジア大会 囲碁 韓国ペアが反則負け

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初めて「スポーツ」として大会種目となった囲碁。20日、

先陣を切って「ペア碁」と呼ばれる混合ダブルスが始まったが、初日から異様な光景が展開した。

“事件”が起こったのは午後の2回戦、中国-韓国(朴廷桓八段、李瑟娥初段)戦だ。

いずれも世界を代表する男女のトップ棋士。優勝候補の筆頭格が1勝同士で激突した。

序盤から互いに譲らない激戦が続いたが、終盤に入って内容的には中国の勝ちが確定。

ところが、まもなく終局かという時に、韓国ペアがまったく無意味な地点への着手を始めた。

持ち時間は各45分で、それを使い切ると内容がどうであれ自動的に負けになる。

韓国は、持ち時間の少なくなっていた中国の時間切れを明らかに狙っていた。

十数手以上にわたり無意味な着手が続いたため、審判団が協議。規定により、韓国の反則負けとした。

韓国側は「ルールの中で行った」と弁明。関係者の一人は「まさか、世界を代表する棋士がそんなことをするとは」と嘆いた。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/asiangames/taiganagarete/news/20101121ddm035050067000c.html

のニュースについてゲーム研究家としての立場^^から、とある方のmixi日記でコメントをいただきましたので

転載して掲載させていただきます。

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草場さんへの質問>「囲碁の勝負で持ち時間の切れ負けありのルール」ってありえなくないですか?

>草場純さんのコメント

これは二つの問題が絡まっています。

①ゲームの近代化の問題

②囲碁というゲームの問題

まず①近代ゲームについて

中世・近世のゲームに時間制限はありません。しかし公式の試合において時間の要素が入ってくるのが近代です。

江戸時代の争碁は、何日も闘いました。何年もかかるというような場合もありえます。しかしこれが近代社会で可能でしょうか。テレビでは延々と変化のない盤面を映すことになります。新聞は何日も囲碁欄が空欄になります。アマチュアの大会では会社を休まねばなりません。

つまり近代において、ゲームに時間の要素は、必須とまでは言わないまでも、重要なファクターになるのです。問題はゲームの本質と時間は、本来次元が違うということです。つまり全く次元の違う要素を含めて、勝敗を決しなければならないのです。これは今までに様々な問題を引き起こしました。極端な例ですが、私もオセロの試合で相手に時計の針を叩き落されたことがあります。実際にそういうことはあるのです。 流石にこれはマナー違反ですが、時間が切迫してくると、どこまでが故意なのかの判断が難しくなります。故意でなければ時計を押した拍子に針が落ちることはありえることであり、その場合は勝ちとしか言えないでしょう。

今回のペア碁の問題は、ありえることです。初めから秒読みか、フィッシャールールがよかったと思います。秒を読む時計も開発されています。次回からそうなるかも知れません。

その上で、今回の問題を考えるなら、結論から言えば妥当と私は思います。

今回の囲碁は恐らく中国ルールでしょうが、日本ルールと違って中国ルールでは自陣に石を置いても損にはなりません。(二眼をなくすまで打ってはいけませんが。) すると韓国ペアの作戦もそれほど不当ではない気もします。つまり損してまで時間切れを狙ったのではないからです。無意味な手を打ったと言っても、無意味かそうでないかは誰が決めるのか、という問題があります。もしそれを審判が決めるものなら、中国審判団の判断も案外妥当とも言えます。すなわち今回の問題は、実はあまり問題ではないのです。(私以外にそんなことを言う人は、あんまりいないでしょうが。)

次に囲碁特有の問題がありますが、それは項を改めましょう。

②囲碁というゲームの問題

草場さんへの質問>「囲碁の勝負で持ち時間の切れ負けありのルール」ってありえなくないですか?

草場さんの回答>「囲碁の勝負で持ち時間の切れ負けなしのルール」ってありえません。

これは知らない人が多いのですが、実は囲碁というのは「終らないゲーム」なのです。特に自殺手を認めると(論理的には認めるべきですが)、本当に無限ゲームに近づくのです。

これは30年ほど前、「マサマティック碁」問題が起こったときに一度話題になり、その後コンピュータ囲碁ができて、その問題が現実になりました。

毎年コンピュータ囲碁選手権が開かれていますが、あるとき「絶対投了しないプログラム」が登場して頭の痛い問題になりました。そのプログラムは着手が非常に早く、全てノータイムで打ってきます。もちろんとても弱いので、あっという間に大石が死んでしまいます。普通だったらそこで投了です。ところがこのプログラムは投了しません。(というか、投了しないようにプログラムされている、と言うべきでしょうが。) 仕方がないので、相手はその大石をトリに行きます。するとその抜き後に平気で打ってくるのですね。あとはこの繰り返しです。いくら取っても取っても、また打ってきます。結局相手は時間切れになって負けるのです。今回の韓国ペアなんかメじゃない凄いプレーです。相手はその時点で何百目も勝っているのですが、時間切れになれば何千目勝っていようが、負けになりますよね。

人間と打っても同じです。人間はこの弱いプログラムに勝てません。確かネット上にまだあると思いますので、一度打ってみられたらどうでしょうか。辟易とします。

囲碁は、終局時に、(日本ルールでは)ハマを加えて地を沢山囲んでいる方が勝ちです。

囲碁は、終局時に、(中国ルールでは)盤上に生きた石を沢山置いている方の勝ちです。

すなわち「終局」が前提条件です。ところがどうなったら終局かは、実はよく分からないのです。まあ、強いて言えばルール上打てる石がなくなれば終局ですが、そうなるまでは何日もかかるでしょう。

日本の現行の囲碁の終り方は「合意」です。「ありませんね。」「終りましたね。」とかなんとか言って終ります。でも例えばボクシングで、ボカスカ殴りあっていたボクサーが、突然「まあ、こんなところかね。」「うんそうだね。」と言いあって試合を終えたら、ブーイング必至ですよね。囲碁は変なゲームなのです。

(厳密には双方がパス(着手放棄)したら終わりです。でも少なくとも一方がパスを拒否したら、結局延々と続くことになります。)

従って、(まあ実際そんなことはないのですが)本質的に時間制限がないと、囲碁は困ったことになりえるゲームです。尤も、コンピュータのように、考えるにも打つにも殆ど時間を消費しない相手には、時間制限を悪用されると勝てなくなってしまうのですけれどね。(人間相手なら、通常の持ち時間で大丈夫です。)

 

(追加コメント)

あと話が違いますが、「ペア碁」というのは国際大会でやるようなものではないように、私は思います。余興や、普及のためにやるというのなら、少しは分かりますが、何のためにペアで打つのか、私にはさっぱり理解できません。