平衡と解析

色々なゲームの戦略を考えていると、ゲームによって、必勝戦略があるものとないものがあるのに、気づく。勿論、「必勝戦略がある」ということと「必勝戦略が求まる」ということとは違うし、「必勝戦略がない」ことと「よい戦略がない」ということとも違う。

例えば囲碁や将棋、チェスやリバーシ、連珠やチェッカー、象棋やチャンギなどの完全情報ゲームは、必勝戦略(あるいは避敗戦略=絶対に負けない戦略)が存在することは確か(確定性定理)だが、容易ににそれが求まるとは思えない。先ごろ田中哲郎氏によって、完全情報ゲームのシンペイが、後手必勝であることが求められたが、伝統ゲーム方は、まだしばらくはそんなことは起こらないだろう。

不完全情報ゲームまで範囲を広げれば、戦略にも不確定な要素が入ってくる。すると必勝戦略や、準必勝戦略の求まりやすいものと、求まりにくいもののバリエーションも広がる。そこで、それらを分類してみよう。

これは、かつて私が『ゲーム探検隊』で書いたことと重なるようでいて、実は微妙にベクトルがずれている。

『ゲーム探検隊』では、収束←→拡散という軸を置いた。

収束型ゲームとは、勝ちやすい、言い換えれば負けやすいゲームである。必勝法(勝つ手段)が求まりやすいゲームと言ってもいいし、避敗法(負けない手段)の求まりにくいゲームと言ってもいいし、鋭いゲームと言っても、一瞬の油断で勝負のつくゲームと言ってもよい。つまり、形勢の動きやすいゲームであり、一端形勢が傾いたら一気に勝負がつくゲームである。よく言えば緊張感があり、悪く言えばあっけない。真剣で切りあうゲームなのである。

拡散型ゲームとは、その逆で、勝ちにくい、言い換えれば負けにくいゲームである。必勝法が求まりにくいゲームと言ってもいいし、避敗法の求まりやすいゲームといってもいいし、鈍いゲームと言っても、じわじわとポイントを稼いでいくゲームと言ってもよい。つまり形勢の動きにくいゲームであり、不利になってもなかなか腰を割らずに、ジワリと逆転できるゲームである。よく言えば大局観があり、悪く言えばだるい。竹刀でぶちあうゲームなのである。

そしてここで大切なのは、よいゲームの条件は、中庸、つまり収束度が高すぎても、拡散度が高すぎても、悪いゲームであるということである。収束度が高すぎるとパズルになり、拡散度が高すぎるとソリテア(一人遊び)になってしまい、ともにゲームではなくなるのである。

しかしここで、新たに導入する軸は、それとは次元が違うと言うか、ベクトルの方向が微妙にずれている。それは、解析←→平衡 という軸なのである。

ではどのようなゲームが解析型かと言うと、必勝法または避敗法の求まりやすい、あるいは明確に存在するゲームがそれである。一方、平衡型とは、必勝法または避敗法が求まりにくい、あるいは存在しないゲームである。

もっと平たく言おう。勝ち方があるゲームが解析型であり、例えばニム(三山崩し)がそれだ。何をやっても同じなゲームが平衡型であり、例えばルーレットがそれである。

ここでもよいゲームの条件は中庸であると思われる。実際のゲームは、ニムほど解析型でもないし、ルーレットほど平衡型でもない。だが例えば将棋のようなゲームは、解析度が高く、ブリッジのようなゲームは、平衡度が高い。とは言え最高ではないので、将棋を解析し尽くした人は(まだ)誰もいないし、ブリッジによい戦略は当然ある。

では、もっとシャープに、この解析・平衡の軸を示しているものを見てみよう。それは「ハゲタカの餌食」である。

ハゲタカの取り札には、プラスカードが10枚、マイナスカードが5枚ある。初めて見たときはとても不思議だった。どうして同じ枚数ではないのか。プラスもマイナスも10枚の方が美しいではないか。ところが、これがランドルフの偉いところなのである。彼は解析・平衡度を調整したのである。

それは全てプラスカード、あるいは全てマイナスカードで同じゲームをしてみれば、すぐ判明する。プラスカードは平衡度をあげ、マイナスカードは解析度を上げるのである。言い換えれば、プラスカードが多いほどランダム戦略がよく、マイナスカードが多いほど固定戦略がよいことになるのである。

トランプにゴップというゲームがある。あるスートのカード13枚を手札に、ダイヤのカード13枚を取り合うのである。これは伝統ゲームだが、やってみれば分かるが、二人では遊べても三人以上では面白くない。少なくとも一人がランダム戦略を取れば、勝敗は偶然に決まるようになるからだ。

ランドルフは、これに半分の枚数のマイナス札を入れることで、ゲームを劇的に変えた。たったこれだけで、ゴップは命を得たのであり、それ以上もそれ以下も必要がなかった。

もう少し分かりやすく書いてみよう。本当は「タカハゲ」をやると、私の主張は体感できる。「タカハゲ」は「ハゲタカ」のミゼールで、多く点を取った方が負け、という以外はまったくハゲタカと同じルールでやる。

これには必勝の固定戦略がある。だから解析型なのだが、つまらなくなるので、ここには書かない。自分で試して求めて欲しい。(ヒント:ルール・オブ・イレブン)

では、以下に分かりやすく説明しよう。

全てプラスカードの場合、人と同じカードを出すのは大変損である。バッティングすると、プラスカードを取れないからである。これを防ぐにはどうするか。→手札をシャッフルしてランダムに出せばいい。(平衡型)

全てマイナスカードの場合、人と同じカードを出すのは大変得である。バッティングすると、マイナスカードを取らないで済むからである。これを招くにはどうするか。→決まりきった出し方(毎回1から順に出していくなど)をすればよい。(解析型)

どうだろう、解析←→平衡の軸は、ゲームの分析に有効ではあるまいか。

 

2006年04月20日mixi日記より)