ゲーム界における左と右

ゲーム界における左と右 (ゲームのカイラリティー)

3人以上でプレイするゲームに順番はつきものである。もちろん、「ハゲタカの餌

食」や「バベル」「ピット」「ビリオネール」のように順番のないものもあるが、た

いがいは順番がある。その順番も勝った順だとか、その他の手続きで決まった順番と

いうこともあるが、殆は右回りか左回りであろう。今回はこの、左と右ということに

ついて考えよう。

ゲームを説明していて、よく混乱するのが、回り順の左右である。そもそも左右と

いうものが、区別しにくい本質を持っている。マーチン・ガードナーの名著『自然界に

おける左と右』によれば、共通の座標系を持ち得ぬほど遠い異星の宇宙人に、言葉だ

けで左右を説明するのは不可能だと言う。唯一「弱い相互作用における対称性の破れ」

によってのみ判別が可能なのだそうだ。しかしそれだって本当に、対称性の破れが宇

宙全体にあまねく同方向に起こっているという保証はあるのだろうかと思ってしまう。

だがここで問題にしようというのは、それほど大仰な話ではない。つまりある人は

右回りを「左回り」と言い、ある人は左回りを「左回り」と言うということについて、問

題にしようというわけである。

私はブリッジのプレイの順番を右回り、花札のプレイの順番を左回りと言うのだと

信じている。だが時々ちょうどこの反対の考えをしている人に出会う。お互いの主張

は真っ向から対立するが、全く相対的で、客観的にはどちらか一方が正しくどちらか

一方が間違っている、ということ以上のことは断定出来ない。互いに相手を説得する

術がないのだ。これこそ定義の問題であるのだ。しかしこの定義も結構面倒なのであ

る。

そもそも回転の方向というのは難しい。左右もそうであるが、何が何に向かって言

う左右なのかが分からないと、左右は何も定義したことにはならない。例えば地球の

回転は、北極上空から見下ろせば左回りだが、南極上空から見下ろせば右回りである。

いっそ上向きスピンとか、下向きスピンとか、はたまたD型、L型とでも呼ぼうか。

しかしそれでも何の解決にもならない。

だから私は、人にゲームを教えるときは決して右回り・左回りとは言わず、必ず時

計回り、反時計回りと表現することにしている。これも正しくは「ゲームテーブルを上

空から見下ろして時計の針の回る方向にプレイが進む」、及び「その反対」と表現べきで

あるかも知れない。

私は、上記の定義の時計回りを右回りと表現することにしている。しかし例えば本

屋の実用書の戸棚にある「トランプの遊び方」などという本を読むと、時計回りを左回

りと表現している本も決して少なくない。これはあながち分からないでもない。私が

プレイし、続いて私の左隣がプレイするのが、「右回り」とはなかなか思いにくいので

あろう。私の定義によれば、プレイする番が左へ左へと回るのが右回り、右へ右へと

回るのが左回りとなるのだ。ゲームはみんながテーブルの方を向いてプレイするのだ

から、そうなるのは当然のことなのだが・・・・。

私の定義はお解り願えたであろうか。次回は、どういうゲームが左回りで、どうい

うゲームが右回りであるのか、そこにどんな法則性があるのか、といったことを考え

ていきたい。

ゲームにおいて右回りを時計回り(左隣へ左隣へと回る)、左回りを反時計回り(右

隣へ右隣へと回る)と定義したとき、現在までのゲームのルールはどのようになって

いるだろうか?

まず当然の事ながら二人用のゲームはこの議論から除かれる。したがって大部分

のアブストラクトボードゲームは、自動的に除かれる。尤も、囲碁や連珠や将棋に

も、連碁や連連珠や連将棋のように多人数でプレイする方法もある。しかしこれら

は正規のゲームと言うよりはやはり座興に類する特殊な例であろうし、またプレイ

の順番も私の見る限りその場で適当に決めているように思われる。(違っていたら、

識者の方ご指摘ください)。またフェアリーの分野では、三人碁や三人将棋、三人チ

ェスなどもよく提案されるが、未だゲームとして確立したものとは思えないので、

やはりここから省くことにする。

すると主として扱うのは、多人数ボードゲーム、カードゲーム、ダイスゲームと

いうことになろう。特に問題となるのは、カードゲームである。カードゲームにお

いては、二人用のゲームでも、たいがい三人用四人用のバージョンがある。あとで

述べる「カードゲームのカイラリティー」においても、一見して二人ゲームと思わ

れるゲームが登場して来たら、多人数用バージョンとご理解願いたい。

たださっそくカードゲームのカイラリティーを調べる前に、「順番のないゲーム」

と「順番の変わるゲーム」について触れておかなければなるまい。

順番のないゲームとは、バベル、ビリオネール、ピット、ゴップ、禿鷹の餌食、

ミシガン、カルタ、などである。ところがこれらもカードの配り方は、たいがい右

回りに私には思えるのだが、いかがなものだろう(ただしカルタを除く)。尤もルー

ルとしてそのように配れとは書いてないだろうから、やはり順番のないゲームとし

てここでの議論の対象から外すことにする。

順番の変わるゲームとは、第一にはエイト、ウノ、タキ、アサノ、オノ99、101、

ノイなどのようなゲームである。しかしこれらも配り方や最初のプレイは右回りな

ので、右回りと分類して問題はないのではないだろうか。

順番の変わるゲームの第二は、「洗濯機」ルールである。洗濯機ルールとは1ト

リックごとに右回り/左回り/右回り/左回りとカイラリティーが変わるものであ

る。これらはどう考えたら良いだろうか。私は最初のトリックの回り方で定義した

らよいと思う。第一トリックが右回りなら右回り、第一トリックが左回りなら左回

りという訳だ。ただ数は少ないが特殊なので*印をつけることにする。

では具体的に個々のゲームに当たってみよう。

トランプゲームのカイラリティー

右回り…コントラクトブリッジ、オークションブリッジ、ハート、ブラックレデ

ィー、99、オーヘル、ホイスト、スカート、シープスヘッド、ヤス、ピノクル、

五百、ラミー、カナスタ、クリビッジ、ピケ、ポーカー、ブラックジャック、ファ

ンタン(7並べ)、カリプソ、ルトゥルック、エイト、ピップピップ、クイント、ゼ

ッテマ、ゴップ、ロイヤルカシノ、タントニー、バラエティー、ミニミゼール、ソ

ロ、シックスビッド、ルー、オールフォア、洗濯機ブリッジ*、大貧民?、ナポレ

オン?。

左回り…オンブル、カラブラセラ、トリセット、パン、カラブラ(カシノ)、スコ

ポーネ、リベルシ、チンチョン、トリウンフォ、明トラ、カン。

どうだろうか、トランプゲームは圧倒的に右回りが多いのがお解りいただけただ

ろうか? では、左回りのトランプゲームに共通する特徴は何だろうか? それは、

「イタリア・スペインのゲーム」、「古いゲーム」ということでである。

トランプ以外のカードゲームのカイラリティー

右回り…ウノ、タキ、アサノ、オノ、101、ノイ、ミルボーン、水道管ゲーム

などのような新しいゲームのほとんど。ドミノ。

左回り…麻雀、花麻雀、花札、株、天九、牌九、チェーテン*、鹿狩り、タロッ

トカードのゲームの大部分。クク、キッレ、ウンスンカルタ、源氏絵合わせカルタ、

ガンジハ。

ここには古い=左、新しい=右以外にも、「東洋の左」が感じ取れる。

カードゲーム以外のカイラリティー

右回り…ライヤーズダイス、ポーカーダイス、ライヤ、その他シミュレーション

ゲームの多く。

左回り…チンチロリン、丁半や手本引きの胴の回り方、目勝ち、ピン転がし、チョボ

一、キツネ、天采。

結論。ゲームはかつて左回りだったのではないだろうか。それが「オンブル」と

「ホイスト」の間あたりで、カイラリティーの変換が起こったのではないだろうか

? それは時代で言えば16世紀後半、場所で言えばイギリス。これを西欧近代の成立

と結び付けるのは、あまりに牽強付会ではあるが、全く無関係とは言い切れないよ

うな気がする(もちろん根拠は何もない)。

課題。ホイストの祖先と目される「ラフ」あるいは「ラフアンドアナーズ」のカ

イラリティーを知りたい。そのまた祖先のトリウンフォは左回りと考えられ、「ラ

フ」の子孫のホイストは右回りだからである。

調査依頼。私は大貧民を右回りでプレイするが、皆さんはいかが? ナポレオン

は私は右回りだが、左回りにプレイするのを見かけたことも何度もある。これは東

洋と近代の共存する国 日本のゲームの特徴と思われる。教えを乞う。 (完)

 (93/10/08-11 FGAMEログより)

 

 

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【mixi日記バージョン】

「ゲーム界における左と右 」(2006年04月27日)