ゲームの農園主

ゲームの農園主 

なかよし村は1982年4月の発足だが、数年の前史がある。そうした中で、私は極めてユニークで大切な人々に出会ったのである。 

SFフ科会でも、パズル懇話会でもそうだし、あらゆるグループはみなそうなのだろうが、どのような人が出会うかで会の全てが決まると言っても過言でないだろう。 

なかよし村草創期の人たちでは、もちろん創立者の村長さんや、長く共同研究者となるNさん、初期に最もよく参加されプレーヤーとして傑出したOさん、日本有数のコレクターOさんなど、極めてユニークな人が多く、彼らとの出会いは、私にとっても村にとっても非常に影響が大きかった。だが、私にとっての最大の恩人は、何と言ってもAさんだろう。 

Aさんは語学が堪能で、英語の文献を渉猟し、様々なゲームを我々に齎してくれた。フランス語を訳してくれて、フランスのボードゲームをやったこともある。ダンジョン&ドラゴンも彼の翻訳で他に先駆けて試すことができた。 

その中でもパーラットの原書や、後のことではあるがジョン・マクラウドのサイト(パガット)から齎してくれるトランプゲームは、我々の世界を変えたと言ってよいだろう。 

日本のトランプゲームの本は、私自身があらかた読んだし、ゲームもやってみた。しかしAさんから教わるゲームは、それらとは一味も二味も違った。 

例えば、デビット・パーラットの創作トランプゲーム「ナインティ・ナイン」は、後に松田道弘氏が訳されて紹介されるのだが、それよりよほど前にプレーできた。多分このゲームを日本で最初にやったのは我々だろう。そしてその秀逸なアイディアを最初に味わう、栄誉に浴したのである。 

ゲームの内容を説明する余裕はないので、興味を持たれたら松田先生の本か、拙著(笑)『夢中になる!トランプの本』の74ページを参照されたい。 

ともかくこのゲームに盛られたシンプルで画期的、斬新かつ機能的なアイディアには参った。プレーしていない人にそれを説明するのは難しいのだが、あたかもよくできたコンピュータ・プログラムが、短い行数でもって驚くほど美しい文様を描くような、そんなことを思わせるゲームであった。(要するに簡単な原理で、人を散々悩ませる。) 

私は元来、いい加減な人間なので、ルールは柔軟でいいと思っている。面白くなければ変えればいいし、伝統ゲームはそうやって発展してきたのだという信念がある。自分なりのモデファイを、いかにも昔からそうであるように教えて恥じない。しかしAさんの方式はそうではなく、精確にオリジナルを辿ろうとする誠実なものだった。 

もう一つ大きく違うのは、ルールの成文化である。私は分かってしまえばゲームはいつでもできるから、少なくとも伝統ゲームのルールに関しては、サマリー以上のものはあまり書いたりしなかった。だがAさんは、きちんと明文化するのである。 

またAさんは、外国のサイトや洋書をそのまま直訳しているのではない。ゲームの翻訳をやったことのある人には分かるだろうが、そのまま単語を置き換えるような方法では、ゲームはうまく伝えられない。読んだら一度咀嚼し、ゲームをよく理解してから日本語ルールを作らないと、ゲームの楽しみは伝わらないのである。 

だからAさんがなかよし村で配布するルールのレジュメは、翻訳ではなくAさんの著作と言ってよい。それを彼は無償で配ってくれるのである。(それどころか、Aさんからも容赦なく参加費を徴収しているのだ。(鬼)) 

こうした仕事は、ただ語学が堪能であるだけでは成し遂げられない。トランプゲームに対する経験と素養が必要なのだ。Aさんは、その両方を備えた得がたい人だったのである。 

そのようにして紹介されたゲーム群の素晴らしさは、やってもらう以外に説明のしようがない。私の『夢中になる!トランプの本』の中でも、ミッチ、ゴルフ、ゲスイット、スパー、ヤニブ、ナインティナイン、ミルケン、スコポーネ、スペキュレーションは、そのようにして教わったものである。(若干、私が手を加えている。) 

これらはどれも、簡単なルールで全く違う花を咲かせる、生きているゲーである。 

かつて松田道弘さんは、新しいトランプゲームをする理由を、「人類のアイディアを味わいたいからだ。」と言ったが、これらは飛び切り味わい深いアイディアの宝庫なのである。 

そうしたものは、ここに述べたゲームだけにはとどまらない。今ちょっと思い返しただけでも、オンブル、ハンドアンドフッド、ベリシネベリシ、オットーチェント、ティジチャ、メイト、ブービー、ミドラー、ミゼルカ、クロビッシュ、タントニー、バラエティー、バッテン、カリプソ、スボイコジリ、キューカンバー、ピードロ、スカート、シャープフコップフなど枚挙にいとまがない。 

これらはトランプのゲームだが、ほかにタロットカードのゲーム、ドミノのゲームなども、面白いものがたくさんある。 

後にAさんは、自分でトランプゲームのルールサイトを作り、書き溜めた自分のルールをそこに上げていった。皆さんも、是非一度覗いてみられるとよいだろう。 

そのサイトを、当初Aさんは「カードゲーム農園」と名づけた。その理由はよく分からないが、たくさんのゲームが植わっているような牧歌的イメージなのだろうか? 現在は「ゲームファーム」と改称している。 

ゲームはやりなれていないと、文章からだけで理解するのは骨が折れる。また、やるには仲間が必要だし、それは簡単には集まらない。だから、このゲームファームも、よく利用されているのかどうか、私にはよく分からない。 

けれどもここは、読んで分かり、かつ誤解がないように丁寧に書かれているのである。人々は気づかないのかも知れないが、手づかみできる貴重な宝物が、いくらでもある宝庫なのである。私などはここを見て逆に、ルールの明文化の大切さを学んでいるくらいだ。 

トランプゲームにどうしても興味を持てない人に無理に薦めようとまでは思わないが、そのような人でなければこのサイトは、農園と言うより花園だと私は思う。 

興味を感じた人は、ぜひ一度、蜜を味わいに行って欲しい。 

ゲームファーム

http://www.gamefarm.jp/

カードゲーム農園(旧サイト)

http://homepage2.nifty.com/cardgame/

http://www2.ocn.ne.jp/~kusaba/gamenoki/kiji/gamefarm.htm

より転載。