私はなぜタロットカードを作ったか

私が初めてタロットカードでゲームをしたのは、1980年代初め頃である。法政大学の江橋崇教授に、シシリアンタロッチを教わった。

更に遡って、私が初めてタロットそのものを知ったのは、図書館で読んだ澁澤龍彦の『黒魔術の手帳』からであった。中央公論の横山さんの話で、これでゲームをするらしいというのを聞いて、ぜひやってみたく思った。その後、松田道弘さんの『とらんぷ物語』が出て、タロットが本来は占いのカードではなく、ゲームの用具であることが、ごく一部には知られるようになった。だが日本では未だに圧倒的に占いの具である。

「かるたをかたる会」の例会で、「シシリアンタロッチ」を教わったとき使用したのは、いわゆるマルセイユパックであった。ゲームは、とても複雑だった。

トリックテイキングには違いがないが、ポイントテイキング、つまり点数のあるカードを取るゲームだ。それだけならいいが、王が5点、女王が4点、騎士が3点、兵士が2点と、今までにない複雑さであった。ブリッジをやる人にはKは3点,Qは2点だし、スカートをやる人にはKは4点,Qは3点だ。おまけにタロットは、絵札にAがなく、代わりにC(騎士)があった。Aはトランプのカードであって、タロットでは数札の1なのである。

加えて、特定の大アルカナ(タロック)に、特定の点があった。(トルルの3枚=パガット(奇術師)、モンド(世界)、スキュース(愚者))

それだけならよいが、修正というルールには参った。これは簡単に言えば、上記以外の点のないカードを、1枚3分の2点と見るような、不思議な配点である。慣れない我々には、スコアをとるだけで、ひと作業となったわけである。

また複雑な数札のランクにも参った。刀剣と棍棒のスートは、トランプ同様10が強く2が弱く、Aならぬ1は最弱だ。ところが貨幣と聖杯のスートでは、Aならぬ1が数札の中では最も強く、数が増えるほど弱くなっていって10が最弱となる。これはうんすんかるたなどと同様なので、それ自体には驚かなかったが、面倒なことは確かで勘違いもしやすい。

もちろんこれに大アルカナのランクが加わる。こちらは占いにでも精通していなければ、即座に正確なランクは分かりそうもない代物だった。しかしさすがはそこはよくしたもので、ローマ数字でⅠ、Ⅱ、Ⅲ・・などとカードに入っている。これがなくてはとてもゲームはできないのだが、困ったことにこれがずいぶん小さくて、見にくいのである。

だがそれでも大アルカナはよいほうで、小アルカナ(数札)になると見出しがないので、一本一本刀剣や棒の数を数えたり、一個一個貨幣や聖杯の数を数えないと、強弱も分からないのである。

もう一つ、愚者のカードがある。これはナポレオン風の逃げ札でそれはよいのだが、使ったら使った当人に獲得される5点のカードなのである。つまり配られたら勝ちなのである。これはカードの問題ではないが、ゲームとしては別の混乱をする。

更に、ルールそのものも大変だった。複雑で奇妙なビッド、そして何より「マストラフ」という不思議なルール。もっともマストラフは、一部の古いトランプゲームにもあるし、慣れるとなかなか面白い、フェアリー味のあるルールではある。

もう一つ大変だったのは、カードの多さである。インデックス(見出し)だけで確認できないカードが多いので、手札が多いのはとてもやりにくく、手も痛くなった。75枚を四人に配ったり三人に配ったりする割りに、カードが大きかったのだ。

こうして、最初のプレーはとても大変だったのである。

その後赤桐さんに、いろいろなタロットカードを教わるようになると、段々奇妙なルールにも慣れてきた。同時にタロットゲームには、とても面白いものがたくさんあるのも知った。

一方タロットは、結構デパートや本屋でも売られるようになってきた。新しいものが出るたびに買ってやってみた。しかし一層やりにくさは募った。魔夜峰央のタロットなどは、特にやりにくかった。どうしてだろうか。

理由はごく簡単で、それらが占い用だったからである。

そのころニチユーを通じて、ヨーロッパのゲーム用タロットカードを何種類か手に入れた。これを見て驚いた。まったくタロットらしくないのである。

まず、ダブルヘッドであった。ダブルヘッドというのはトランプの絵札のように上下に頭があるタイプの絵で、逆さにしても同じに作ってあるものだ。また大アルカナに当たるカードには、5とか8とかいう数字が大きく書いてあるだけで、描かれている絵は、まったくタロットらしくない絵であった。奇術師も、隠者も、女教皇も、吊るされた男も、死も、運命の輪も、太陽も、審判も、世界もない、単なる花の絵だったり、農村の絵だったりした。また、小アルカナに当たる数札には、インデックスが入っていた。インデックスというのは、トランプにある見出しである。

これは使いやすかった。これを使ってしまうと、もう占い用ではゲームはできなかった。つまりタロットゲームをやるためには、ゲーム用のカードが必須なのである。

こうして、私達は、いろいろなタロットゲームを色々なタロットカードでやってみた。その結果更に、どういうカードがやりやすいかが分かってきた。

まずスートだが、普通は「刀剣・棍棒・貨幣・聖杯」が多いが、ゲルマン系の「葉っぱ・団栗・鈴・ハート」などもある。しかし最もやりやすいのは、「スペード・クラブ・ダイヤ・ハート」である。その理由は、単に我々がそれに慣れているからである。ただし、ヨーロッパのゲーム用タロットカードに、「スペード・クラブ・ダイヤ・ハート」のタイプは少ない。

また同様に、キングはRよりKが、クイーンはDよりもQが、ジャックはVやFよりJがと、英語系表記がやりやすい。これも単に、日本人がそれに慣れているというだけなのだが。

一方、海外のゲーム用タロットにも不満があった。まず、ないものねだりだが、タロットとしての雰囲気がない。花の絵だったり、町の絵も悪くはないが、面白くない。またこれはゲーマー的発想かも知れないが、固有の点数はカードそのものに書かれていて欲しい。これはゲームの種類によって違うので、問題はあるが、多くは前述したタイプのものだ。点数が書いてあるとないとで、ゲームのやりやすさは雲泥の差となる。

それに第一、日本製のタロットカードがこんなにあるのに、その中にゲーム用が一個もないというのは、残念ではないか。占い用はカードの正立・倒立が大切なので、シングルヘッドである必要がある。しかしゲーム用は、いちいち上下を直さなくてよいダブルヘッドがやりよい。この一点をとっても、両者は容れあわないのだ。

そこで、私は私費を投じて、日本初のゲーム用タロットカードを製作することにした。

1.まず絵だが、大アルカナは、前妻にアイスクリーム一個を奢って描かせた。(笑) 参考にしたのは、パメラ・コールマン・スミスの、いわゆるウェイト版である。ちなみに年をバラすと叱られるが、前妻は、パメラの亡くなったその日の誕生である。きっと生まれ変わりに違いない。(笑)

2.もちろんダブルヘッドにした。

3.スートマークは、スペード・ハート・ダイヤ・クラブにした。

4.インデックスを入れた。大アルカナのインデックスは、1~21の算用数字にし、愚者には0を入れた。小アルカナは敢えてトランプと同じようにした。ただし、左手利きを考えて全て4インデックス(四隅に見出しがある)にした。

5.パガット(奇術師)、モンド(世界)、スキュース(愚者)のトルルの3枚には、色を変えて(5)と、点数を入れた。

6.絵札は、KQCJと英語式にした。騎士は英語ではKtだが、キングとまぎれるので、カバロのCにした。

7.当然、K(5)、Q(4)、C(3)、J(2)と点数を入れた。( )は、色を変えた。

8.Aはエースでなく1なので、1とした。スペードの1を大きく書くようなことはしなかった。

9.これは常識だが、裏も印刷(昔のカードは白いまま)し、角は丸くした。

10.カードは、手札が多くても持ちやすいように、細長くした。

11.赤桐さんの解説を入れて完成した。皮肉にもこのゲームに限っては、入れたカードの配点とは違っていた。だが他の多くのゲームは非常にやりやすい。

面白いというのか、皮肉と言うのか、俗手の本手というのか、結局はトランプに感じの似たタロットになった。だが、それは考えた末の結論なのである。手前味噌になるが、絵はなかなか美しい。

こうして、これを萬印堂に印刷してもらい、「なかよし村とゲームの木」の例会千回記念として、発行したのである。

CM. 日本初のゲーム用タロットカードは、一個ニ千円で売ってます。もちろん3月26日のゲームマーケットでも売ります。冒頭の写真は、その絵札を絵葉書にしたもので、こちらは一枚百円です。C(カバロ)が特徴ですよ。

 

2006年03月09日mixi日記より)

 

 

【関連サイト】

タロットカードのゲーム(ゲームファーム)

タロットカード(メビウス)