打倒と独立
打倒と独立と言っても、植民地解放運動の話ではない。
先に私はゲームの戦略的類型から見た分類に、「収束―拡散」「解析―平衡」という軸を導入してみた。ここでもう一つ、第三の軸を導入してみたい。それは打倒型ゲームと、独立型ゲームである。
この、打倒←→独立 という軸は、考え方は簡単である。
打倒型ゲーム・・・他人の邪魔をしやすいゲーム
独立型ゲーム・・・みんなで一人遊びをやっているようなゲーム
打倒型ゲームは、多くの二人ゲームがそれだ。将棋でも囲碁でも、互いに相手の意図を何とか挫こうと努力する。相手の負けが自分の勝ちなのだから当然だ。
尤も二人ゲームでも、スパイトアンドマリスのように、互いに一人遊びをやって、どっちが早く完成するかで勝敗を競うようなゲームは、独立度が高く、打倒度が低いと言える。徒競走も、相手を邪魔するわけではないので、独立型競技と言える。その証拠に、相手がいないタイムトライアルでも可能だ。将棋はまさか、一人で独立に指すわけにもいくまい。衝立将棋というのもあるが、あれは相手が見えないだけであって、居ないわけではない。
しかし、そのような徒競走でも、タイムトライアルより、実際にレースをしたほうがよい記録が出るのは、面白い。独立型とは言え、ゲームである以上、打倒的要素が入るのは当然なのかも知れない。
多人数ゲームになると、この打倒度/独立度という指標は大いに意味を持ってくる。なおここで言う多人数ゲームとは、三人以上の全てのゲームを指す。
多人数ゲームは、強い独立型から強い打倒型まで広いスペクトルがある。よく「マルチ」と言われるゲームは、打倒度の高いゲームの謂いである。とは言え、完全な独立型や完全な打倒型は少ない。完全な独立型ではゲームの意味がないし、完全な打倒型ではゲームは進まない。
打倒度(独立度)は、ゲームによって違うが、当然ルールに依存するので、ルールの変更で強度は変化する。麻雀を例に考えてみよう。
麻雀は、どちらかと言うと独立度の高いゲームである。特に昔の麻雀ほど、それが言える。初期の麻雀は、あがった人はみんなから平等に点数を貰った。自摸和と栄和が同じだったわけだ。しかも、あがらなかったプレーヤーも、手の形によって点を獲得できたりした。勢い、せっせと手の形を作るゲームとなった。つまりあがりが相対的に軽視され、振込みもあまり問題とされなかった。つまり独立度の高いゲームだったわけである。
放家包というルールは日本製のルールだと思うが、要するに振り込んだ人の責任払いである。このルールによって、打倒度が高まったのは、了解いただけるだろう。「狙い撃ち」などの打倒的戦術も、ある程度は可能である。
このように、放家包というルールの採用によって、麻雀の打倒度は、確実に上がったのである。とは言え、麻雀は本質的に独立型ゲームであると私は考えている。
では、独立/打倒は、どこで測るのか。その客観的指標はどのようなものだろうか。
数値化した単位のようなものは、私もまだ考えていない。単位化の過程としてはまだ、直接比較・間接比較の段階である。だが次のようなことは言える。
「特定のプレーヤーを意図的に負けさせることのできるゲームは、打倒度が高い。」
これは「打倒」の定義に近いので納得しやすいだろう。自分の勝敗を度外視しても「あいつだけには勝たせん!」という気になるのは、マルチゲームではたまにあることと思う。で、そう決意したとき、容易にできるほど打倒度が高く、なかなかできないほど独立度が高いと言えよう。
麻雀の場合も、「あいつには勝たせん!」と思うことはある。打倒度を高めた「放家包」ルールを利用して、他人の牌では当たらず、彼の打牌のみで当たるようにする。彼には絶対振り込まないようにし、他の二人にはどんどん勝負する。確かにこれをやられたら、「彼」はかなり勝ちにくいだろう。だが、「彼」にどんどん満貫を自摸ったりされたら、結局どうしようもない。また「牌を絞る」のを戦術と考えている人もいるが、実際にはさほどの効果もない。これが、私が麻雀の独立度が高いと考える理由である。
モノポリーはどうだろうか。「ある人との交渉には絶対応じないが、他の人とは積極的に交渉する」、とやられたらかなり不利であろう。打倒度は麻雀より高そうだ。だが、絶対ではない。
ラミィキューブは、かなり独立度の高いゲームである。特定の人を勝たさないことは出来そうにない。
ポーカーは独立型だが、ブラックレディは打倒的要素が強い。いわゆるマルチシミュレーションゲームは、打倒型要素が強い。マネージャーというゲームは、打倒度が高いと思われるのに、個人狙いをできないゲームである。良いゲームと思う。
カタンは? アクワイヤは? と考えていくとなかなか面白い。
例によって、よいゲームは中庸にある。独立度の強いゲームはパズルをやっているような気になるし、打倒度の高いゲームは終わらないソリテアになる可能性がある。ここに、収束←→拡散の軸、解析←→平衡の軸との相関が垣間見えて面白い。
では、次に、強い打倒型ゲームが、どうして終わらないかを説明してみよう。そこには重心原理が働くからである。重心原理については、本日の日記に書くことにする。