用語について
よく使用される用語で、引く、割る、おりる、当てる、走る、遅れ、などは現代日本のバックギャモン用語とあまり変わらない。
ただし「おりむかう」「ひきつめる」というように用語が複合すると、ニュアンスは分かるが、現代では使わない語になるので、解釈が難しい。
現代では使わない用語は、むね(6ポイントのスタックを表すらしい)、かける(ヒットだが、アタックする・攻撃するに近いニュアンス)、
さす(相手のインナーから脱出する)、高目(ダイスの大きい目)などのほか、最も重要な用語の「は」もこの範疇と言える。
「は」はブロットを表す用語で、変体仮名では「者」を字母とするものを当てる。そうしたきまりがあったわけではないだろうが、
「盤」「波」「八」などを崩した「は」がブロットの意味になることは、少なくとも双六手引抄ではほとんどない。
逆に「は」以外の語形もたまに「はいし」「は石」がある程度で、ほとんどない。私は解釈で「端」という字を当てたが、
それは他の文書の用語で「端石」という用例があり、「は」一字では(助詞としてもつかわれるので)とても分かりにくいので、
「端」の字を使うことにしたものであって、定まった用字というわけではない。他の文献では「葉石」も使われる。
更に、「端」そのものの解釈にはあまり問題がないが、「ふた端」「ふたつ端」「きり端」などになると、その解釈はかなり難しく、
これまでの私の解説が誤っている可能性もある。諸賢のご高評を仰ぐところである。
一番面倒なのは、現代でもよく使うが意味が違う用語で、「うつ」がそれに当たる。
「打つ」は現代ではヒットするという意味を持ち、頻繁に使われるが、江戸時代ではもっと一般的に「play」の意味で頻繁に使う。
例えば「双六を打つ」と言えば「双六をプレーする」という意味だし、「五三を打つ」と言えば「ダイスで53を振る」という意味である。
だから結果としてヒットするという意味になることもあるが、普通はもっと広い意味でつかわれる。
最後に、現代で使われない単語で、双六手引抄にも一度か二度しか出なかったような用語を挙げておこう。
きおい、かたき、かきめ。
1897年の『新撰双六独稽古』には用語集がついている。これが1679年の『双六手引抄』で使われているかどうかを確かめてみた。
〇は使われているもの、×はつかわれていないものである。
搦む×、一荷×、葉石○、割る○、蒸す×、切る○、乾す×、さす○、飛びつき×、締め出し×、おくれ○、高き石×、薄き石×、ならす×、先筒・後筒×。
「一荷」はブロックポイントを表す重要な用語だが、手引抄では全く使われていない。